まゆのお産Ⅲ

 陣痛室に行き「痛い、痛い」とうなって待機していると看護士さんが「もうすぐ歩けなくなるかもしれないから分娩室に行こうか」と言い、分娩室に入りました。初め、古い分娩台へ案内されましたが「新しいほうにして下さい」と言って新しいほうの分娩台に横たわりました。
 「楽な姿勢でいいですよ」と助産士さんが来て言ってくれ、ヒーリング音楽のようなものをかけてくれました。私は右側を下にして横になって相変わらず「痛い、痛い」とうなっていました。痛いと言えば痛さが遠のくような感じがしたのです。どんな痛さだったかと聞かれても出産した翌日には忘れてしまいましたが、産道をぐりぐりとえぐられるような、腰骨をハンマーで叩かれるようなそんな痛さだったかもしれません。助産士さんは枕を股の間と腕の中に置いてくれました。確かにそうすると少し楽になりました。
 時間は何時だったか忘れましたが、もう一人の助産士さんが「さあ、25日になるか、26日なるか」と言っていました。この際、どっちでも良かったのですが25日は大安だったので25日に生まれないかなと期待しました。
 痛みがもう耐えられないところまで来るといよいよ両足を広げました。助産士さんは「頭が見えている」と言いました。「頑張って」と言われ何度かいきみました。いつ来たのかお医者さんもいました。
 「おんぎゃあ〜」という声。ピンク色の肌。真っ黒の髪。目はつぶっていました。すぐに私のお腹の上に乗せてもらいました。それから私のおっぱいを吸わせようとしました。吸い付こうとしても吸い付けません。それでも根気良く何度もトライしていました。
 私のお腹の中から出てきたのにどこか遠くからやって来てくれたような感じがしました。
 0時23分。日にちは26日になっていました。
 体重は2926g。「3000gになる前に出てきてね」という私の無理なお願いをかなえようと必死になって出てきてくれたのです。私は自分の勝手な都合をこんな小さな赤ちゃんに押し付けていました。